――イソップ童話「きつねと つる」――
■きつねを擬人化し、「手」をつけたイラストは誤り
本書22~23ページの「たしかめドリル①」では、
イソップ童話「きつねと つる」が教材としてとりあげられている。
たしかに、これはなかなか面白いお話である。
小学1年生の子供たちに是非とも読んでもらいたい作品だ。
だが、
そこについているイラストがよくない。
このイラストでは、
つるときつねが擬人化され、
彼らは立派な服を着て、二足歩行をしているのである。
つるはもともと二足歩行であるので、まあいいだろう。
問題はきつねである。
イラストではきつねも二足歩行をし、
前足は「手」として描かれている。
しかしそれでは、
作品の筋が通らなくなってしまうのである。
ここで、
「きつねと つる」のあらすじをざっと紹介しておこう。
ある日いたずら者のきつねが、
「おいしい スープを ごちそうする」と言って、
つるを自宅に招待する。
ところがきつねは、
そのスープを「たいらな おさら」に入れて出したのである。
つるのくちばしは長いので、
お皿をつつくことしかできない。
きつねは自分のスープを全部飲んだ後、
「おや、いらないのかい。
では、
ぼくが きみの 分も いただくよ」と言って、
つるのスープまで全部飲んでしまうのである。
結局きつねには最初から、
つるにスープを飲ませるつもりなどさらさらなかったわけだ。
そこでつるはある仕返しを考えた。
翌日、
今度はつるがきつねを自宅でのパーティーに招待する。
きつねはつるの家にやってくる。
つるはごちそうを出して、
「さあ、どうぞ めしあがれ」と言う。
だが、
ごちそうはすべて、
「細長い つぼ」には入っていたのだ。
本文では、
「きつねが いっしょうけんめい したを のばしても、
ごちそうに とどきません」と書かれている。
だが、
このお話はあくまできつねが「四足」であることが大前提となっている。
もしイラストにあるようにきつねに手があったのであれば、
「細長い つぼ」を持ち上げて、ひっくり返して食べれば
すんでしまう話になってしまう。
「いっしょうけんめい したを のば」す必要などどこにもないのである。
これではそもそも「しかえし」にはならない。
大体つるの出した「ごちそう」は、
つぼに入っているものである以上、
中身はつぼの口から出入りできる大きさのものである。
ひっくり返して出てこないはずはない。
それともこの「ごちそう」は、
つぼの中で固まるゼリーかムースか何かの類だったとでも
言うのだろうか。
(もしそうであれば、
作品本文中ではっきりと明示するべきである。
そうしないと、
「イラストではきつねには手があるのに、
どうしてつぼをひっくり返さないんだろう」と、
学習者の間に至極当然の疑問を呼び起こすしまう)。
以上で述べてきたように、
イソップ童話・「きつねと つる」のお話は、
きつねが四足であり、
「手」を持たないことが作品の大前提となっている。
もしきつねに手があったのなら、
作品そのものが成り立たなくなってしまうのだ。
子ども向けの学習教材において、
登場する動物たちを擬人化したイラストで紹介して
理解を促すことは決して悪いことではない。
しかし、
イラストはあくまで本文の理解を助けるものでなければならない。
本文の内容と矛盾し、
作品の前提そのものを破壊してしまうイラストなら、
むしろ載せないほうがましである。
僕は、イソップ童話・「きつねと つる」のイラストにおいてきつねは、
原作の想定どおり、
あくまで四足の動物として描かれるべきだと考える。
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